【ラブライブ!】曜「紫陽花の鞠莉ちゃん」

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2: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 15:56:21.00 ID:WPHIiiA7

この季節の雨は気まぐれだ。

長雨がずっと続いていたかと思えば、突然やんだり。

蒸し暑くて夏を予感させたかと思えば、冷たい雨を降らせて肌寒かったりで。

体感天気予報が特技の私だけど、梅雨の時期は天気の方が一枚上手ってことがよくあるんだ。

鞠莉ちゃんと一緒に帰った、あの日もそうだった。


3: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 15:57:20.70 ID:WPHIiiA7

その日は朝から小雨が降ったり降らなかったりしていて。

はっきりしない空模様だったけど、午後はやんでいたから「家に帰るまではなんとか持ちそうかな」なんて思っていたんだけど。

私たちの淡い期待もむなしく、帰り道の途中でざーっと降られてしまった。

朝からの雨のおかげで、二人とも傘を持っていたのはよかったけど…やっぱり降らないに越したことはない。

曜「雨って、やだよね」

隣を歩く鞠莉ちゃんに、思ったままのことを伝えた。


4: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 15:57:55.50 ID:WPHIiiA7

鞠莉「そうね。濡れちゃうし、気分も上がらないし」

曜「ねー」

鞠莉「でも…たまには悪くないわ」

ちょっと意外な反応だった。晴れと雨、鞠莉ちゃんなら断然前者が好きそうだったから。

鞠莉「曜は雨が嫌い?」

曜「うーん…嫌いってわけじゃないけど」

鞠莉「好きってわけでもない?」

曜「そんな感じかな」

鞠莉「ふふ、そっか」


5: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 15:58:46.71 ID:WPHIiiA7

曜「鞠莉ちゃんは、雨好きなの?」

鞠莉「私も好きってわけじゃないけど、雨は雨で良いものよ」

曜「どんなところが?」

鞠莉「そうねぇ、んー…」

鞠莉ちゃんは少し考えた後「言葉で表すのは難しいんだけど」と前置きして。

鞠莉「普段とは違った一面っていうか、毎日の裏側にある別の顔っていうか…そういうのってネガティブに捉えられがちだけど、実は大事なことだなって思うの」


6: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 15:59:38.03 ID:WPHIiiA7

鞠莉ちゃん自身が認めたとおり、その説明はふわふわしているというか、とても感覚的なものだと感じた。

曜「なんかわかるよ、それ」

でも、伝わった気がした。

鞠莉「ほんと?」

曜「うん。なんとなく、だけどね」

例えば鞠莉ちゃんの場合。普段は夏の向日葵みたいに明るくて、それでいて責任感の強い、頼れるみんなのお姉さんだけど。

二人きりの時は、それとは違った表情を見せてくれることがある。

ちょうど、今の鞠莉ちゃんみたいにね。


7: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:01:58.74 ID:WPHIiiA7

それはきっと私も同じで。

鞠莉ちゃんといる私は、身構えないありのままの私っていうか、一人のときよりも本当の自分でいられるんだって思えるときがある。

そして、そんな時間を、きっとお互い心地よく感じている。

そんな話をしたことはないけれど――

鞠莉「よかった。曜ならわかってくれると思ったわ」

鞠莉ちゃんの微笑みが、なによりの証拠だ。


8: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:02:44.34 ID:WPHIiiA7

曜「ふふっ。そう考えると、確かに雨も――」

悪くないかも、と言いかけたところで。

曜「わあっ!?」

鞠莉「きゃっ!!」

雨が急にその勢いを強め、私たちの傘を激しく打ち付ける。さっきまでは弱めのシャワーくらいだったのに、今は加減を間違えたかのような土砂降りだ。

鞠莉「曜!」

曜「うんっ!」

急いで身を守る場所を求めて走り出す。本当、これだからこの時期の雨はままならないよ。


9: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:03:53.54 ID:WPHIiiA7

かろうじてお店の軒先に逃げ込んだ私たち。雨の勢いは激しく、いつ収まるともわからない。

傘を持っていなかったら、ここに辿り着く前に二人ともびしょ濡れになっていただろう。

鞠莉「落ち着くまで待った方が良さそうね」

曜「そうだね…ふぅ、ひどい目にあった」

屋根があれば、とりあえずは一安心。傘を閉じて雨を払い、カバンをガサゴソやって大きめのタオルを取り出す。

曜「鞠莉ちゃん。使って」

鞠莉「曜が先よ、風邪ひいちゃうわ」

曜「大丈夫、私の分もあるから」

こういうこともあろうかと、今日は一枚多く用意してたんだ。


10: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:04:52.72 ID:WPHIiiA7

鞠莉「そういうことなら…ありがとう、使わせてもらうわね」

曜「えへへっ」

鞠莉ちゃんの役に立てた気がして嬉しくなる。気まぐれな天気には困っちゃうけど、今は準備がいい自分を褒めてあげたい気分だよ。

ザー……

雨宿りを始めてどれだけ経っただろう。多分5分も経っていないはずだけど、他にすることがないだけに時間の感覚がわからなくなる。

雨は降り続いているけど、雲が薄くなっているからピークは過ぎたって感じだ。

鞠莉「さっきより弱くなったかしら」

曜「そうだね。このまま大人しくなってくれればいいけど」

鞠莉「ふふっ。なかなか面白い言い方するのね」

曜「えっ。今の変だった?」


11: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:06:08.21 ID:WPHIiiA7

自分じゃ特におかしいとは思わなかったけど…鞠莉ちゃんにそう言われると不安になる。

曜「…?」

こちらからの問いかけに反応がない。鞠莉ちゃんを見ると、その目線は遠くに向けられていた。

曜「どうかしたの?」

鞠莉「曜。見て、ほら、あそこ」

指差す先を目で追ってみると、道路を挟んで向こう側、歩道わきに紫陽花が咲いているのが見えた。


12: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:07:23.23 ID:WPHIiiA7

曜「あの紫陽花のこと?」

鞠莉「ええ。見に行かない?」

曜「えっ、でも、まだ雨は降って――わあっ!?」

言い終わる前に鞠莉ちゃんは自分の傘を開き、私の腕を取って中へと引き入れた。

曜「ちょ、待って、傘なら自分のがあるから…!」

傘を使おうとする私を制するかのように、さらにぐいっと体が引き寄せられた。

曜「わ、わ…!」

鞠莉「いいから、もっと寄って。雨に濡れちゃつまらないわ」

だったら、なおさら私が傘を使えばいいのでは…


13: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:08:29.04 ID:WPHIiiA7

同じ傘の下、これだけ身を寄せあえば、確かに雨に打たれる心配は減るだろうけど。

鞠莉「さ、行きましょう」

曜「う、うんっ」

なんて言うか…すごく近い。

いつもと違う距離感と状況。ドギマギする私の気持ちをよそに、鞠莉ちゃんにエスコートされるがまま道を渡りきり、私たちは目的である紫陽花にたどり着いていた。


14: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:09:26.40 ID:WPHIiiA7

曜「わぁ…」

漢字で紫に陽の花と書くとおり、その紫陽花は紫と青い花をまるで太陽のように咲かせていて、雨粒に揺られてキラキラと輝いていた。

紫と青…私たちのイメージカラーと同じ色だ。

鞠莉「綺麗。まさに満開といった感じね」

曜「誰かが育ててるのかな」

鞠莉「おそらくね。きっと街の人が手入れをしてくれているのよ。こんなに素敵な色をしているんですもの」

曜「うん、本当に綺麗な…色だね」

「紫と青だね」と言おうと思ったけど、色が揃った偶然を嬉しく感じている自分がなんだか照れくさくて、言葉を飲み込んだ。


15: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:10:21.79 ID:WPHIiiA7

だけど、鞠莉ちゃんはくすっと微笑んで。

鞠莉「雨に降られたおかげで、こんなにも素敵な紫陽花と巡り会えた。そう考えれば、雨もなかなかいいものでしょ?」

巡り会えた――私の心の中を見て取ったかのようなその言葉に、思わず鞠莉ちゃんに視線を向ける。

鞠莉「出逢いなのよ、これも。きっとね」

いつもより距離が近いせいか、それとも雨の雰囲気のせいか。

紫陽花を見つめる鞠莉ちゃんの横顔は、見とれてしまうほど綺麗だった。


16: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:12:59.00 ID:WPHIiiA7

……………………………………

家に帰ってからも、さっき見た紫陽花と鞠莉ちゃんの言葉が頭の中にずっと残っていた。

曜「巡り会えた、か」

偶然見かけた紫陽花について、鞠莉ちゃんはそう表現した。それが出逢いだとも言っていた。

その言い回しがとても印象的で、なによりすごく鞠莉ちゃんっぽかったから。らしくないのは承知だけど、私も運命めいたものを感じずにはいられない。

曜「巡り会い…だとしたら、私と鞠莉ちゃんの出逢いも、そうなのかな…?」

さっきからそんなことばかりを考え続けている。

私たちと同じ色の紫陽花と、鞠莉ちゃんの言葉や横顔の記憶がリピート再生されるたびに、胸の中の思いがどんどん膨らんで大きくなっていくようで。

雨粒に揺れる紫陽花に、自分たちのことを重ね合わせてしまうのは、この時期ならではのセンチメンタリズムのせいだろうか。


17: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:14:05.18 ID:WPHIiiA7

曜「それはそれとしても…」

心の梅雨曇りは、実はもう一つあって。

曜「プレゼント、どうしよう…」

そう、もうすぐ誕生日を迎える鞠莉ちゃんへのプレゼントが決まらないんだ。

誕生日にはAqoursのみんなでお祝いする計画が進んでいるけど、それとは別に、私個人としてお祝いと感謝の気持ちを伝えたい。

すごく頑張り屋さんで、理事長としてもスクールアイドルとしても大忙しで、自分が一番大変なはずなのに。

いつも笑顔で、周りの人に元気と勇気を与えてくれる。私のことまで気にかけてくれて、話を聞いたり背中をそっと押してくれる。

優しくて、あたたかくて、それでいて私と同じで、少し不器用な鞠莉ちゃんだから。


18: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:15:51.77 ID:WPHIiiA7

それなのに、どんなものが鞠莉ちゃんの好みで、何をプレゼントしたら喜んでもらえるのか…いくら考え続けても、全然思い至らない。

曜「はぁ…」

ため息をひとつ。ベッドに体を預け、スマホでブラウザを開いてヒントを探してみるけど…あまり期待はできなさそう。

検索履歴は「誕生日プレゼント」「何」「決め方」「喜ばれる」「わからない」などなどで既にいっぱい。連想されるキーワードはほとんど調べ尽くしていたからだ。

…いや。そもそも、こういうことじゃないんだよね、きっと。

曜「まだまだ知らないことばかりだ。私、鞠莉ちゃんのこと…」

心の梅雨曇りが、より一層強くなった気がした。


19: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:17:31.76 ID:WPHIiiA7

追加のため息がまたひとつ。

そのまま当てもなくトレンドのトピックスを眺めていると、流行スイーツ特集が目に入った。

曜「初夏、梅雨の季節のスイーツ…?」

そういう気分ではないけど、何の気なしにタップした私の目は、内容を読み込むにつれて徐々に大きく、はっきりと見開かれていく。

曜「これだ!!」

私は跳ね起きるやいなや、ドタバタと慌ただしく出かける準備を済ませて部屋を飛び出し、勢いはそのままに階段を駆け下りていく。

曜ママ「曜、どこ行くの?」

曜「買い物、すぐ帰るね!」


20: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:18:55.70 ID:WPHIiiA7

曜ママ「こんな時間に?暗いんだから気をつけて、早く帰るのよ」

曜「うんっ、行ってきまーす!」

玄関を出る。雨はもう降っていなかった。

自転車に乗って走り出した私の頭を満たしていたのは、センチメンタルな梅雨曇りではなく、いま見た色あざやかなスイーツ特集だ。

曜「こんな発見――いや、出逢いがあるなんて」

これも鞠莉ちゃんの言う『巡り会い』なのかもしれない。突き動かされるように、私は水たまりが残る夜の街を駆け抜けた。


21: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:21:34.76 ID:WPHIiiA7

……………………………………

そうして訪れた、鞠莉ちゃんの誕生日当日。

理事長室の扉の前で、私は右手に小さな袋を持って立っていた。

今日は梅雨が嘘みたいに朝からよく晴れていて、暑くておまけに湿度も高い。

その分、さっきまで冷蔵庫に入れられていた袋の中身――この日のために用意したプレゼントから、ひんやりとした冷気が伝わってくる。

今の気温にはもってこいだ。気まぐれな天気だけど、今日のところは私の味方をしてくれるのかもしれない。


22: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:22:15.01 ID:WPHIiiA7

私は袋の中身を傾けないよう気を配りつつ、その場で身だしなみの最終チェックを済ませる。

曜「髪はよし、服もオッケー。心の準備も…よしっ!」

意を決してドアをノックする。この瞬間はいつだってドキドキだけど、大事なことの前ならなおのことだ。

「はい」と、少し引き締まった鞠莉ちゃんの声が返ってきた。

曜「私です、曜です」

鞠莉「曜?入って、私一人よ」

相手が私とわかってか、声の調子が和らいでいる。私は「失礼します」と応えてから、ドアを開けて入室した。


23: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:23:19.64 ID:WPHIiiA7

まだ緊張が残る私を、部屋の主はにこっと笑って迎えてくれた。

鞠莉「いらっしゃい。曜、一人?」

曜「うん、忙しくなかった?」

鞠莉「大丈夫よ。ふふっ、今日はどうしたの?」

曜「実はね、その、渡したいものがあって」

後ろ手にしていた袋を持ち直して、中から小さな白い箱――持ち手が付いた、スイーツ用のギフトボックスを取り出す。

鞠莉「それ、もしかして」

曜「えへへっ。ちょっと抜け駆けだけど、誕生日おめでとう」

笑顔で緊張を抑えつつ、手にした箱を鞠莉ちゃんに差し出した。


24: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:24:21.70 ID:WPHIiiA7

鞠莉「まあ…ありがとう、嬉しいわ。ふふっ、こういう抜け駆けなら大歓迎よ。今日は暑いことだしね」

箱の冷たさのことを言っているのだろう。中身がスイーツだということは、箱の形からも明らかだ。

曜「開けてみてくれる?」

鞠莉「いいの?それじゃあ早速…わぁ…!」

箱の中を見た鞠莉ちゃんが驚きの声をあげる。私はその様子を見て、心の中で「よしっ」と叫んだ。

誕生日だからということもあって、鞠莉ちゃんは中身はケーキだと想像していたのしれない。

今のリアクションは、その想像をいい意味で超えたことの証。


25: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:31:11.19 ID:WPHIiiA7

鞠莉ちゃんが大事そうに箱から取り出したのは、手のひらサイズの、小さな紫陽花の花束のようなカップスイーツ。

二人で見た紫陽花をモチーフにした、ミルクプリンのベースの上に、紫と青のゼリーを散りばめた――

曜「紫陽花ミルクプリンだよ。上に乗ってるのはクラッシュゼリーなんだ、レモン味の」

鞠莉「綺麗…これ、曜が作ったの?」

曜「ネットで見てさ。えへへっ、見よう見まねなんだけどね」

鞠莉「すごいわ。とっても綺麗で、あざやかで…パティシェが作ったみたい」

曜「えへへっ…!スプーンも入れてあるよ。よければ、食べてもらえると嬉しいな」

見た目は好きになってもらえたけど、本題はここから。美味しく食べてもらえるかどうかが、やっぱり一番重要だから。


26: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:31:59.89 ID:WPHIiiA7

鞠莉「食べるのがもったいないくらいだけど…では、いただきます」

鞠莉ちゃんはゆっくりとスプーンを近づけ、表面に散りばめられた紫陽花ゼリーだけをすくって――口へと入れる。

思わず息を飲む。私に訪れる、本日最大の緊張。

鞠莉「――んっ!」

鞠莉ちゃんの表情が明るくぱあっとはじける。

鞠莉「美味しい…!」

曜「ほんと?」

鞠莉「ええ。さわやかなレモンの味と香りが口の中に広がって、涼しげで、爽やかで…本当に美味しいわ」


27: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:37:01.72 ID:WPHIiiA7

曜「やっ、たぁ…!」

嬉しい気持ちが抑えられなくて、つい声に出して喜んでしまった。そんな私に、鞠莉ちゃんは優しい眼差しを向けて。

鞠莉「私のために、沢山頑張ってくれたのね」

曜「えっ?」

鞠莉「わかるわ、伝わるもの。曜の想いが込められたこのゼリーから、ね」

曜「…えへへっ」

危なかった。今の言葉でちょっと泣きそうになっちゃった。

実際、作るのは簡単じゃなかった。

ミルクプリンはともかく、肝心のゼリーが強敵で。硬さや色、味、クラッシュする大きさ――どれを取っても一筋縄ではなく、何度も試行錯誤を繰り返した。

曜(でも、頑張った甲斐はあったみたい。よかったぁ…!)

鞠莉ちゃんはくすくすっと笑いながら、再びゼリーを口に運ぶ。

鞠莉「んー、本当に美味しい」

幸せそうに食べてくれるのが嬉しくて、想いが届いたのが嬉しくて、お祝いしてるはずの私の方が祝福されているような気持ちになる。


28: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:38:06.48 ID:WPHIiiA7

鞠莉「ね、聞いてもいい?」

プリンを半分くらい食べ終えて、鞠莉ちゃんが口を開いた。

曜「ん、なにかな」

鞠莉「この、紫陽花ゼリーの色についてなんだけど」

曜「色?」

鞠莉「ええ。紫陽花には沢山の色があるけれど…その中で紫とブルーを選んだのには、その、何か理由があるのかしら」

微笑みながら尋ねる鞠莉ちゃんだけど、私にはやや歯切れの悪い言い方に聞こえた。

なんていうか…そう、まるで照れ隠しをしているみたいだ。

鞠莉「例えば、私と曜の色だから…とか?」

曜「!」


29: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:41:11.16 ID:WPHIiiA7

今日もまた、心の中を見透かされるのは私の番だった。

色については私だけのシンパシーだと思っていたから、鞠莉ちゃんには話していないことだった。

それがこうもあっさりバレちゃうあたり、私ってわかりやすいタイプなのかな――いや、違う、そうじゃない。

鞠莉『出逢いなのよ、これも。きっとね』

あの時の鞠莉ちゃんの言葉が頭をよぎる。

そうだよ、見透かされたわけじゃないよ。これは、鞠莉ちゃんと私が、きっと同じことを考えているからで――

鞠莉「…違った?」

私が反応出来ずにいたら、見込みが外れたと思ったのか、鞠莉ちゃんの声と表情に戸惑いの色が混じっている。


30: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:44:09.31 ID:WPHIiiA7

曜「ううん、合ってるよ!ごめんね、急に黙って。びっくりしちゃったんだ、同じことを思ってたんだ、って!」

私だけの考えと思っていたことが、実はちゃんと繋がっていた。そのことが嬉しくて、つい早口で喋ってしまう。

鞠莉「…うふふっ、やっぱりね。こういうアプローチ、奥ゆかしくて好きよ?」

いつもの言い方に戻っていたけど、声のトーンがちょっと違うし、表情も少し照れているように見えた。

曜「そっか、ふふっ。私もだよ」

鞠莉「!」

私の返した一言に、鞠莉ちゃんはなぜかハッとした表情を浮かべた。心なしか、頬も少し赤くなっているように見える。

鞠莉「…ずるいんだから」

鞠莉ちゃんがぽそりと呟く。

私はその表情に意識を向けすぎていたから、呟きとして漏れ出た鞠莉ちゃんの心の声を、聞き取ることができなかった。


31: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:45:10.19 ID:WPHIiiA7

鞠莉ちゃんはこほん、と仕切り直しの咳をしてから。

鞠莉「ところで…曜は紫陽花の花言葉って知ってる?」

曜「花言葉?うーん…前に何かで聞いたことがある気がする、詳しく覚えてないけど」

ただ、あまり良いイメージじゃなかったような…

鞠莉「答えは『移り気』。もっとストレートに『浮気』って言うのもあるわね」

曜「ああ、それそれ。移り気、か」

鞠莉「総じて言えば『移ろいやすい』ってことかしら。紫陽花の花の色が、時期や育つ場所によって変わることに由来するんだって」

曜「なるほど。さすがは鞠莉ちゃん先生だね」


32: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:45:58.94 ID:WPHIiiA7

移ろいやすい――つまり、変わりやすい。

梅雨といい紫陽花といい、予測不可能なところや、色んな表情があるところは、鞠莉ちゃんとよく似ているのかもしれない。

あ、鞠莉ちゃんは浮気みたいな悪い変わり方をする人じゃないから、そこは間違いなく当てはまらないけどね。

鞠莉「そんな紫陽花だけど、実は花の色ごとにも、それぞれ対応する花言葉があるの」

曜「ああ、それも聞いたことあるかも。バラとかガーベラもそうだよね、確か」

鞠莉「ええ。それでね、このゼリーの色みたいに、紫や青みのある紫陽花の花言葉は――」

曜「…?」


33: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:48:59.45 ID:WPHIiiA7

一番大事なところに来て、急に解説が止まってしまった。その表情からは、鞠莉ちゃんが何を考えているかは伺えない。

曜「鞠莉ちゃん、花言葉は?」

続きを促すと、鞠莉ちゃんはくすりと笑って。

鞠莉「ふふっ、やめた」

あと一歩だというのに、まさかのキャンセル。

曜「え、えっ?そこまで説明しておいて?」

鞠莉「あまり気にしないで、大したことじゃないし」

いやいやいや。いくらなんでも急転換、と言うよりも急ブレーキすぎるよ。


34: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:51:00.42 ID:WPHIiiA7

曜「気になるよ、教えてよ」

鞠莉「別になんでもないのよ、本当にね。ただ…」

曜「ただ?」

鞠莉「ただ、もしかしたら私たちって、私たちが想像している以上に似た者同士なのかも…って思って」

曜「…!」

それって、私と鞠莉ちゃんが通じ合えているってことなのかな?色のことと同じで、私たちは繋がりあえているってことなのかな。

なんだか、頬と耳が熱くなっていくのを感じる。


35: 名無しで叶える物語@\(^o^)/ 2019/06/22(土) 16:52:39.23 ID:WPHIiiA7

鞠莉「今日はそのくらいで勘弁しておいて、ね?」

てへぺろ、と声に出して舌を出す鞠莉ちゃんに、私もすっかり追及する気をそがれて。

曜「わかった。気になるけど、詳しく聞かないことにしておくよ。だって誕生日だもんね?」

鞠莉「そうよ。誕生日だもの」

曜「ふ、ふふっ、あははっ!」

鞠莉「うふふっ」

そうして二人で笑い合う。

こんな風に新しい鞠莉ちゃんと出逢えるのなら、知らない私たちと巡り会えるのなら、雨もまた悪くない――なんてね。


私が青い紫陽花の花言葉の意味を『辛抱強い愛』だと知るのは、もう少し経ってからのこと――



終わり


引用元: ・http://nozomi.2ch.sc/test/read.cgi/lovelive/1561186543/

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この記事へのコメント

  1. 名無しのラブライバー:2019/07/20(土) 12:29:31

    梅雨という季節、空模様と心模様、そこに紫陽花と花言葉というアクセント、一本筋が通っていて読みやすいとても綺麗な話でした。
    鞠莉と曜って大事なことを口にしないというか言うなればすこし”臆病”なところが似ていて、そんなところに彼女たちがシンパシーを感じているんじゃないかなと、、、
    楽しませてもらいました!


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